口中よもやま話  
2001年10月号掲載


ときどき、レストランで会話を聞いていると、注文した品物を見ただけで、「こいつは、歯ごたえがありそうだなあ〜」とか「こりゃ〜歯がたたないよぉ」また食後に「歯がういてしまった」などなど、歯に関係のある言葉が聞かれます。

 人は、食べ物のおいしさを味わうとき、通常は、味覚という感覚で処理をしていますが、別に「歯ざわり」「歯ごたえ」という感覚を大切にしているようです。かつて初期の宇宙食では、良い味、良いにおい、高い栄養価のみを追求したために、チューブに入ったペースト状になっていたそうです。しかし今日では、形のあるものに変化しつつあります。これは、軟らかくて噛む必要のない歯ごたえのない食事では、食べた気がしないからでしょう。

 では人は、この感覚をどこで感知しているのでしょうか。それは、歯根膜という歯の根と歯槽骨(歯を支える顎の骨)の間にある弾力性のある薄いクッションのような組織なのです。この歯根膜の中には感覚神経が存在し、センサーの働きをしていて、なんと8〜15ミクロン(1ミクロン=1000分の1ミリ)ほどの微妙な厚みまで感知でき、それらの情報が大脳のコンピューターへ送られ、総合的な判断が加わり、「歯ざわり」「歯ごたえ」などの感覚として処理されているようです。

 食事を美味しく味わうには、舌の感覚だけではなく、このように歯からの情報も重要な部分を占めているようです。ですから、歯の健康を損なうと美味しさも半減。グルメを楽しむにはやっぱり歯が健康でなくっちゃね。