あわてず、さわがず・・・
 
2005年12月号掲載


世界一の長寿国日本、いまや100歳を超える方もあまり珍しくないほどです。そんな今、人々の興味はただ長生きするだけでなく、いかに健康に生きてゆくかということに移っているようで、テレビや新聞雑誌などでは健康番組、健康記事が花盛りです。
 そこでは我々が専門としている歯科の分野のお話もよく取り上げられています。ただ、歯の健康維持を正確に伝えてくれているのならば我々としても大変ありがたいのですが、中には興味本位な内容や、妙な誇張を見かけることがあります。痛くなく、削らなくて良い治療、またたく間に手に入る白い歯、薬や身近なものでうがいをすれば治る歯周病(歯槽膿漏症)、はたまた逆に、虫歯をほっておくと癌になったり心筋梗塞や脳卒中で命を失っってしまう・・・。

 ここで、皆様方に冷静に考えていただきたいことは、テレビや新聞雑誌は、それを見る人のためだけに作られているのではなく、スポンサーの意向が大きく影響していること。そのため、視聴率や購読者数上昇が重視され、当たり前のことよりも、「刺激的」な内容が好まれること。放送時間や記事のスペースにも制限があるため、情報の偏りがあること。そして、製作する方は医療の専門家ではない記者のため、専門知識の理解が低く思い違いをおこしやすいこと。などという問題点をはらんでいるのです。実際取材を受けた歯科医に伺った所、数時間かけて取材され詳しく説明したはずなのに、放送では数分にまとめられて、強調した重要な本意は省かれていたことがあったそうです。

 また、人間の体は親子兄弟であっても全て違います。そして虫歯一つとっても成立ちや状態は様々です。そのため全ての人に同じ症状の進行がおこるとは限りません。治療にあたっても、適応症といって効果が認められる病状が決まっており、同じ治療法が利用できるとも限りません。その上、同じ適応症を持つ方法が新しくできたとしても、効果が劇的に違わなければ、安全が確認されている既存の方法を使うことが、大切な患者さんに対しては第一選択となります。開発された新しい方法は、発表後何年もかけて適応症を見極め、多くの歯科医に臨床的評価を受け、それが良好なら初めて多くの方の治療に供されるようになります。しかし、残念ながら過去に番組や記事でよく取り上げられた“新しい画期的な”と言われた治療法の中には評価が優れず消えてしまったものが多かったことも申し添えます。

 このようにテレビや記事は、まずは情報として「楽しむ」、又は「知っておく」程度と心得るのが良いと思います。内容を気にして不安になったり、これしかないと思い込んだりする必要はありません。そしてどうしても不安なら、かかりつけの先生にその由を伝え予約をとってから質問してみましょう。かかりつけの先生ならば貴方の歯のことを十分理解しておられますので、貴方の安心できる答えをいただけると思います。