母乳は大切
 
2005年8月号掲載


赤ちゃんは生まれてすぐでも、口元にお母さんの乳首を近づけてやるとそれを咥え母乳を飲みます。これは誰に教わったわけでもなく、人が生きるために自然と備わった本能なのです。この行動は、その子が生涯口で物を食べる最初の練習であり、実はこの時も母乳を吸って飲んでいるのではなく、乳首を噛んで飲んでいることを御存知だったでしょうか?赤ちゃんはこの時、まだ歯の生えていない上下の顎で乳首をはさみ、舌で圧迫し、出てきた母乳を飲むのです。しかし生まれたてで、力の弱い赤ちゃんには、これは大変な仕事です。お母さんの母乳を作る態勢も最初はまだ不十分で、スムーズに出てこない母乳を赤ちゃんは全力で飲みます。でも、一度に飲める量は少ないことが多く、すぐにお腹をすかしむづかり、昼夜区別なくお母さんを起こし泣くために、母乳育児を決めた人でもそれを続けるにはよほどの精神力がいる時期です。

 でもこの時に最初から、母乳を与えずに哺乳ビンでミルクを飲ませているとどうなるでしょう。お母さんのオッパイに比べほとんどの哺乳ビンは、噛んで力を入れなくても楽に沢山のミルクが口の中に入ってきます。そのため赤ちゃんはすぐ満腹になり、よく寝てくれます。お母さんにとっては大変助かるのですが、これに慣れて早くから哺乳ビンでミルクを与え続けていると噛んで飲むというせっかく授かった本能を忘れてしまう事例も出てきます。その場合、離乳食時期をすぎても上手く噛んで飲み込むことができず、硬い食べ物を嫌うようになり、場合によっては顎の骨の発育が劣り、顎を動かす筋力も弱く顎全体が未発達で“きゃしゃ”な子になります。

 残念ながら、もしこの時にあわてて、急に硬い食べ物を与えだしても時すでに遅く、顎の構造がすでに硬い物を受け付けなくなっていて、なかなか食べてはくれません。また、食事は丸呑みになりやすく、胃腸などの消化器系に負担がかかり、内臓が弱く病弱となってしまう場合もあります。

 そして顎の“きゃしゃ”な子は、歯が生えそろう隙間が不足し、大人の歯が生える時期に上手く歯が並ばず歯並びも悪くなってしまいます。こうなると虫歯や歯周病(歯槽膿漏症)が発生しやすく、結局若くして歯を無くしてしまうことにもつながってしまうのです。

 その上、母乳育児は歯の問題だけでなく、赤ちゃんの免疫系のサポート、肌と肌のふれあいやお母さんの心音を間近に聞く安心感などメンタルな面でも大変重要と考えられます。ただ現代は、お母さんの立場でも子育てだけにかかりきる事ができない数々の問題があるため、一概に「全て母乳育児にせよ!」などと強く言うつもりはありませんが、授乳の方法がその子の一生の健康状態を左右するのも確かなのです。今赤ちゃんを育てているお母さん、妊娠中のプレママさん、なにかと忙しいのもわかりますが、赤ちゃんの将来のためこのお話を頭の隅にでも覚えておいて参考にしてください。