歯列矯正治療の開始時期
 
2005年6月号掲載


昔は八重歯がチャームポイントなどと言われ、歯並びの悪さも魅力とされた時期がありました。しかし最近は、白い歯、きれいな歯並びが重視され、芸能人やプロスポーツ選手はこぞって美しい口元をアピールするような時代です。そのためか、今は多くのかたが、歯並びの悪さを治療してほしいと希望されるようになってきました。

 ところで、よく「歯並びが悪い」とひと口に言いますが、診断上この状態は大きく2つに分けることができるのです。1つは単純に「歯だけの問題」で歯並びが悪い場合、もう1つは顎の骨の大きさや形にも問題がある場合です。実は、この2つの違いによって歯列矯正治療の開始時期や治療期間、治療内容は大きく異なってしまいます。

 もしあなたや、あなたのお子さんが「歯だけの問題」で歯並びが悪い場合ならば、治療の開始はどの年齢からでも始められます。むしろ子どものころより大人になってからの方が良い場合さえあるぐらいです。と言いますのは、自分自身の意思で、「きれいになりたい」と思える年齢から治療を始めると、治療に対して目的意識を持っていただけるので、歯に矯正装置を付けるという少々不快な事も、それを調整するために歯科医院に通い治療を受けることも、積極的に協力していただけ、治療が上手く進みます。これが、低年齢で本人にはあまり治療を受けたい意思が無く、親御さんの希望だけで治療を開始した場合などは、遊ぶのに夢中でつい予約時間を忘れてしまい、来院されず治療が遅れたり、矯正治療中は特に注意が必要なハミガキなど歯の手入れをおざなりにしてしまい、多くの歯に虫歯を作って途中でやむを得ず治療装置をはずすことになり、矯正治療が一向に進行しなかったり、中止しなければならなかったりすることもあるからなのです。そして、治療開始は、歯周病や骨粗しょう症など骨の病気さえ無ければ、永久歯が生えだした子どもから、50歳代以上になっても十分可能です。そう、この場合の矯正治療は子どもだけの治療ではないのです。治療期間としては、全部の歯を移動させる必要がある場合で2年間前後、一部の歯を移動させるだけならそれより短くなります。

 一方顎の骨の大きさ、形に問題がある場合は小児期に治療を始めないと取り返しがつかなくなってしまいます。人は、思春期に入り体の骨格が大きく成長するのですが、顎の骨も例外ではなく、この時期を逃さないようにして、顎の骨が成長する方向と量を修正していくよう治療します。もしこのタイプの人が治療時期を逸して大人になってしまうと、歯のみの矯正だけでは治療できず、顎の骨の外科手術を併用して治すしかありません。例外を除き、治療開始時期は遅くても小学校3〜4年生ぐらいまでには開始になります。症例によってはより早い方が良いようで、大人の歯が生える前から治療開始すると言う先生もおられるぐらいです。そして、男子の方が女子より成長が遅く始まり長く続く影響で治療期間も、男子の場合は10年間ほどかかる場合もあり、女子ではこれより少し短くなるようです。

 あなたや、あなたのお子さんがどの時期から治療を必要とするかは、矯正を行う歯科医にしか診断できません。もし、お子さんの将来の歯並びが気になる場合は、前歯が生え変わるころに一度歯科医に相談されてはいかがでしょう。