障害を持つ幼児期のお子さんの歯磨きについて
 
2005年2月号掲載


一生自分の歯で食べることは、全ての人の願いです。「歯磨き」は、その願いを叶える大切な手段です。ただ、歯磨きが重要なことを理解していても、障害を持つお子さんのお母さんには、身体の障害の事で頭の中がいっぱいになり、手間のかかる歯磨きは後回しになっていたり、せっかくやってあげようとしても、子供になかなか歯磨きをさせてもらえず、ついつい歯磨きがおろそかになってしまうと嘆いている方が少なくありません。また、その結果虫歯が発生してしまった場合は、歯科治療を受けることになるのですが、障害を持つお子さんの歯科治療は残念ながら大変な労力と精神的負担を強いるものであるのが現状です。一度そのことを経験されたお母さんや、子供には絶対に虫歯を作らせないと決心しているお母さんの中には、疲れている体にムチ打って、お子さんが口を開けずに嫌がって逃げ回っても、必死の思いで押さえつけてついつい力を入れて歯みがきをしてしまう……。

 お母さん、お気持ちはよく分かります。でもちょっと待ってください。お子さんがなぜそんなに歯磨きを嫌がるのか少し考えてみましょう。それは、まず口の中は、身体中で外からの刺激に対して一番敏感に反応する部分のひとつである事を理解していただきたいのです。そしてこのことは非常に早い時期から認められ、なんと胎児期にはすでに観察されているほどなのです。しかし、一般に障害を持つ子供たちの場合、感覚や運動の体験不足があると言われており、口や顔の領域にもそのことは当てはまります。障害を持つお子さんの行動には、離乳前期から離乳期にかけて行う、玩具を噛んだり、机の縁をかじるなどの「口での遊び」体験が少なくなる傾向にあり、口の中は過敏になっているようです。そこへ持ってきて突然、ザラザラした毛の生えた歯ブラシを口に入れられ、ゴシゴシこすられるのは決して快いものではなく、痛みを感じてしまうこととなり、それを嫌がり逃げてしまうのは当然の行動なのです。

 それでは、どういう風に注意すれば歯磨きを受け入れてくれるのでしょう。まず、お子さんの歯みがきの時、お母さん自身がゆったりとした気分になって歯磨きをやってあげることです。やらなければならないことがたくさんあるとは思いますが、一区切り用事を済ませて、お子さんの歯磨きには心の余裕をもって臨んでください。お子さんにまず心理的な安心感を与えるのです。使用するのはやわらかめの小さい歯ブラシが良いでしょう。前歯のまわりのハグキは痛みを感じる所が多いので注意してください。奥歯の周囲は少ないので、奥歯の外側から少しずつ慣れさせながら磨いていくと早く受け入れてくれるようになります。歌やリズムをつけて楽しくやさしく磨いてあげるのも良いでしょう。「10数えるまで我慢しようね。」と言って10まで数えたり、タイマーを利用したりするのも効果的です。このように、過敏な口の中を痛みを与える事なく磨いてあげることが出来れば、その後は驚くほど素直に受け入れてくれるようになります。お母さん、お子さんの歯磨きどうですか?力が入りすぎていませんか?お子さんは今まで、痛くても言えなくて逃げていただけなのかも知れませんよ。