タバコと歯の病気の関係
 
2004年12月号掲載


最近の報道で、日本の喫煙率もやっと下がり始め50%を割ったと言う報告がありましたが、それでもまだ30歳代の喫煙率は50%以上であり、また若い女性の間ではいまだ上昇していると言われています。ほぼ25%に低下しつつある欧米先進国に比べまだまだ由々しき状況であることは間違いありません……「え?歯医者がなんでタバコの話してんねん??」といぶかるかたがおられるかもしれませんが、実は、このことは歯科に大変関係があります。歯を失う要因として喫煙は大変大きなウエイトを占めている事実があるからなのです。

 歯科医が扱う主な病気は、虫歯と歯周病(歯槽膿漏症のこと)です。そして今の技術では、少々の虫歯ならば歯を助けることが出来るようになりました。一方歯周病になると、患者さんが御自分で気づかれた時には既に抜歯しか処置が無い場合も多く、50代以後の抜歯の原因はほとんど歯周病といっても過言で無いぐらいです。この歯周病、口の中の常在細菌(誰の口の中にも普通に存在する雑菌)が増殖しバイオフィルムという状態(これをプラークと呼ぶこともあります)になり、それらが出す毒素に対してそれを無毒化しようとする免疫細胞(白血球やリンパ球など)とのせめぎ合いにより発生する炎症(腫れ)がその病気の本体です。ですから歯周病は細菌集団の増殖により悪化しますが、逆に免疫力の低下があった場合にも悪化がおこります。つまりハミガキなどを行っていても免疫力や抵抗力が低下すれば、歯周病は進行することになります。

 そして、タバコはその成分に約4000種類もの化学物質が含まれ、そのなかの有害物質は200種類以上と言われます。中には末梢血管を収縮する物質も含まれハグキへの血液の流れが悪くなり貧血状態となり、免疫細胞の活動を阻害するようです。また吸い込むタバコの煙は高温で乾燥していてそれが直接ハグキや頬の粘膜に当たり乾燥させてしまいハグキの抵抗力を低下させます。タバコは体内のビタミンCを破壊し痛んだ粘膜の回復が遅れます。貧血状態のハグキには、メラニン色素も沈着しハグキは青紫色に変色するため美しさを損ねます。歯の表面にこびりつくタールはザラザラで、細菌がそれを取っ掛かりとしてハグキの隙間に侵入し、表面に症状が出ない間に深刻な症状まで歯周病を進行させ、治療をしても効果が表れなくなり、急速に歯を失います。

 確かに歯周病はタバコでおこる喉頭がんや、肺がん、胃がん、脳血管障害、心筋梗塞、慢性閉塞性肺疾患などとは違い命までも奪ってゆくことはありません。しかし、歯周病による歯の障害や喪失は熟年期のクオリティーオブライフ(自分らしくより良く、美味しく楽しく日々を生活していくこと)を大きく低下させます。とは言っても、禁煙はなかなか難しいものニコチンの魔力(実はそれは中毒症状)があなたとタバコの縁をなかなか切らせてくれません。自分ひとりではなかなかやめられないのです。しかし、健康増進法の施行に伴い藤井寺保健所が積極的に地域ぐるみのタバコ対策に取り組んでいただいておりますし、歯科医院も含め禁煙サポートを行う医療機関も増えてきました。やめたいけれどもやめられない方は専門家へ相談しサポートを受けるのも有効な方法かもしれませんよ。

(注・禁煙サポートは現在健康保険診療ではありません。まずは保健所または、実施医療機関へお問い合わせください)。