唾液のパワー
 
2004年10月号掲載


皆さんは梅干などすっぱい物を思い浮かべた時、自然と口の中に唾液がたまりませんか。また、食べ物を口の中に入れた時など、自分では何も調整しようと思っていなくても沢山の唾液が出てきますね。意識はしていませんが、この様に我々の口の中にはいつも唾液がいっぱい出ています。全部集めるとなんと一日に中型のペットボトル1本くらい、だいたい1リットル〜1.5リットルもの量になると言われています。
 この唾液にはいろいろな働きがあります。最も知られているのは、唾液による食べ物の消化です。食べ物を口の中に入れると、唾液により程良く湿り気をおび、口唇や舌の力によってうまく歯の上に乗せられます。そして細かく咬みくだかれ、唾液の中のアミラーゼの働きによりデンプンをマルトースまで分解します。ごはんを噛み続けるとだんだん甘く感じるようになるのはこの働きのためです。

 唾液の自浄作用も忘れてはいけません。唾液はその99.5%が水分で、その流れにより歯の表面についた汚れや細菌を洗い流す役目をし、虫歯原因菌の作った酸を中和します。そして、口の中を湿らせて食べ物等を飲み込みやすくしたり、話をする時に舌の動きを良くし発音しやすくもします。

 注目すべきことは、唾液には初期のむし歯(エナメル質う蝕)を治す作用があるということです。最近テレビ等で聞く再石灰化とは、このことを指します。ただそれは、我々が通常目にする穴のあいてしまったむし歯を治してくれるということではなく、歯の表面が少し白っぽくなっているほんの初期のむし歯に対してです。その部分に対して、唾液中の成分であるカルシウムが沈着しミクロの虫歯を修復するのです。CMでうたう機能性ガムは要するに食後にそれを噛む事により、良く唾液を出し口中に唾液を行き渡らせることを目的にしていて、ガムの成分が虫歯を治すのでは無いことを覚えておいてください。また、この作用を十分発揮させるには、丁寧なブラッシングやフロッシングなど、しっかりとプラークコントロール(歯とお口のお手入れ)をする事が必要です。

 これら以外にも、口の中にできた傷が、ほとんど化膿する事なく自然に治るのは唾液に含まれるリゾチームのような殺菌成分のおかげですし、食べ物の中の発がん性を抑えるペルオキシダーゼなど、微量ですが人の健康を支える成分が色々含まれています。口の中に入った食べ物を、何度も何度も、しっかりと咬んで、より多くの唾液を出し、健康な歯と体を守りましょう。